同一労働同一賃金の基本の基本
2025年11月21日、厚生労働省が「同一労働同一賃金ガイドライン」の見直し案を公表しました。
2018年12月28日、告示第430号として正式なガイドラインが告示されてから初めての見直しとなります。
投稿日時点では見直し案に留まっていることからその内容について触れることはしませんが、
今回のコラムでは同一労働同一賃金の最も基本的な部分を確認してみることにします。
そもそも同一労働同一賃金とは?
会社に雇用される正規雇用と非正規雇用との間における不合理な待遇の相違や差別的取り扱いをなくすことを目的とするものです。
なぜ「日本版」というのかについては、同一労働同一賃金の主流であるヨーロッパとは単位が異なるためです。
ヨーロッパは会社単位ではなく産業単位、日本は産業単位ではなく会社単位である部分に相違があります。
同一労働同一賃金の根拠となるものは?
パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)のうち、
第8条で「均衡処遇」、第9条で「均等処遇」を定めています。違いは次のようになります。
(第8条)均衡処遇:バランスの取れた処遇を行うこと。(=不合理でなければ差異があってもいい。)
(第9条)均等処遇:差異を設けてはならない。(=完全に同じにする必要がある。)
均衡処遇・均等処遇ができていないとどうなる?
パートタイム・有期雇用労働法は大きく分けると「労働行政」に区分されます。
すなわち、均衡処遇・均等処遇に問題があった場合、同法を管轄する労働局による行政指導の対象となり得ます。
なお、2022年12月から労働局と労基署の連携強化の方針が発表されています。
完結にまとめると、本来同法の管轄外であった労働基準監督署からも労働局に企業の情報が伝えられることになりました。
これにより、労働局による迅速な調査や指導が行われる仕組みに変わったということです。
また、行政指導を経ることなく、いきなり訴訟ということも十分考えられます。
[余談]均衡処遇・均等処遇は別の法律に規定されていた
元々、均衡処遇・均等処遇に関する規定は『労働契約法』に定められていました。
しかし、労働契約法は「労働民法」という位置づけであり、この法律を理由に行政指導することはできません。
時代や社会情勢の変化に伴い、均衡処遇・均等処遇に関する裁判が増え、そのままでは司法が逼迫してしまいます。
そこで「労働行政」にあたる『パートタイム・有期雇用労働法』に移設することで行政指導が可能になります。
行政指導の対象とすることで司法の逼迫を抑え、原則である自主解決に導こうと考えていたかもしれません。
均衡処遇・均等処遇の違反となったらどうなる?
「均衡処遇」の違反となった場合、基本給や手当であればその差額相当分の損害賠償となります。
しかし、違反となった労働条件をどのように修正するかまで司法や行政は求めませんし、求めることもできません。
つまり、その修正については会社と労働者が自主的に解決していくことになります。
正規雇用と同一の処遇に引き上げるもよし、労使協議・合意で折衷案を導入するもよしとなります。
「均等処遇」の違反は会社にとって舵取りが難しくなります。
均等処遇は差異を設けてはならないことから、正規雇用と同一の処遇に引き上げることが基本的な処置となります。
しかし、中小企業ではそのような体力がない場合も考えられます。
それを防ぐために正規雇用者の労働条件を引き下げようものなら、離職により人手不足を加速化させるだけでなく、新たな訴訟リスクも発生しかねません。
ガイドラインの変更でどうなる?
冒頭でも述べたように、現状では未だ見直し案の段階です。
今回はガイドラインの変更であって、法律の改正ではありません。
法改正であれば施行日に対処を済ませていなければなりませんが、このガイドラインはあくまでも不合理性をある程度わかりやすく伝えるものです。
つまり、今回のガイドラインでは「同一労働同一賃金の対策が進んでいるか」「対策が漏れていればどのような措置を講じるか」を考える素材にすることで足ります。
しかし、裁判ではガイドラインの影響を受けた判決も少なくないことや昨今の人手不足の観点からも早めに対応していくことが望ましいです。
当事務所では、同一労働同一賃金に対応する制度設計・規則改定も既に承っています。
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