「減給」を正しく理解する
はじめに
「減給」という用語は、単純に「賃金(給与)を減らす」と解釈できます。
しかし、「減給」という言葉だけでは幅広く捉えることも可能であり、ときにはそれが労働基準法上の問題になることもあります。
今回は簡単なようで意外と奥深い「減給」についてわかりやすく整理していきます。
表現を使い分ける
賃金(給与)を減らす事情には大きく分けて2つのものがあります。
それは「①:懲戒処分として賃金(給与)を減らす」「②:役職・職務などの変更により賃金(給与)を減らす」という2つです。
①と②をより正確に表現すると①「減給」、②「降給」となります。
まずはこの2つに区分されることをイメージしましょう。
減給と降給の違い
前述したように減給と降給ではその事情が異なることがわかりました。
それでは次にそれぞれの性質を深堀して、その違いを明らかにしていきましょう。
減給
減給とは
懲戒処分における制裁の1つです。
懲戒処分であることから、懲戒規定に減給の定めがなければできません。
そして、減給は労働基準法でその上限が定められています。
労働基準法第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
減給のポイント
法律の条文を読むと少し難解に思われてしまいますが、次のイメージをしておきましょう。
・その労働者が受ける賃金(一賃金支払期)の中から一定額を差し引くもの。
つまり、月給者であれば基本給や手当、時給者であれば時間給を減らすということではありません。
降給
降給とは
降給とは、基本給や手当などが引き下げられることを指します。
つまり、毎月支払われる賃金額が、以前よりも少なくなることです。
例えば「役職が下がる」「職務の変更」の結果というイメージになります。
降給のポイント
降給は減給と違い、労働基準法で何らかの定めがあるものではありません。
しかし、労働契約法や様々な裁判例を見ると、安易に実行できるものではないことがわかります。
そして次のように減給と呼称していなくても、その性質が減給と解されることがあり得ます。
「降給、減俸が従来と同一の業務に従事させながら賃金額だけを下げるものである場合には、通常の労働に対する対価としての賃金を継続的に一定額減給するものであり、それは本条(労働基準法第91条)にいう制裁に該当するであろう。」(労務行政研究所(2020年).『第2版 実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法』.労務行政)
「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない」とは
これについては通達がありますので見ていきましょう。
「1回の事案に対しては、減給の総額が平均賃金の1日分の半額以内でなければならない。」(昭23.9.20 基収第1789号)とあります。
これは次のように理解することになります。
① 1回の事案について、平均賃金の1日分の半額ずつ何日にもわたって減給してよいということではない。
② 1日に2つの懲戒事由に該当する行為があれば、その2つの行為についてそれぞれ平均賃金の1日分の半額ずつ減給することはできる。
(労務行政研究所(2020年).『第2版 実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法』.労務行政)
「総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」とは
前述②のように複数の懲戒事由によって、減給処分の総額が一賃金支払期における賃金の総額の1/10を超えることはあり得ます。
例えば、複数の減給事案で減給処分の総額が一賃金支払期における総額の3/10になったとします。
このような場合には、次のように考え方が分かれます。
A:それでも1/10までしか減給できない。
B:1/10を3か月にわたって減給する。
この場合の答えはBになります。
労働基準法第91条が示していることは、あくまでも「1回の賃金支払期間では1/10以上減額してはいけない。」ということです。
若干読み取りにくい条文なのですが、このように理解しておくことで整理が進みます。
そして、このような事態も想定した就業規則の条文になっているかも確認しておきましょう。
おわりに
これまでの話を整理すると次のようになります。
①「減給」と「降給」の違いを理解しておく。
② 減給の方法を理解しておく。
③ 降給を安易にしてはいけない。
賃金に関することはトラブルになりやすいので、初動の時点から専門家に相談しながら対処していくことが望ましいです。
「まだ相談しなくていいだろう」と引っ張ってしまうと、問題の収拾が難しくなってしまうこともあります。
気軽に相談できる外部窓口として、トラブル対応の経験豊富な当事務所をご検討ください。

