精神障害者の労務管理

増加傾向が続いている精神障害。

また、障害者雇用促進法が定める法定雇用率も段階的に上がっています。

そのような状況の中で精神障害がある方々の労務管理の難しさを感じている担当者の方も多いと思います。

今回は私が障害者職業生活相談員の資格を生かして労務管理に携わった経験をお伝えしていきます。

採用

まず重要なことは採用に至る過程です。次の事項を意識しておくといいでしょう。

① 会社側が聞きたいこと、知りたいことを準備しておく。

過度な緊張状態で会話することが難しいこともあります。

聞きたいことや知りたいことを準備して、穏やかな温度感とゆっくり話すことで徐々に自らの言葉が出てくるようになります。

そのため、面接の時間も余裕をもってセッティングしておくといいでしょう。

② 支援機関との連携をしておく。

募集の段階から、就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターなどの外部専門機関と連携しておくことをお勧めします。

このような機関では、就職訓練を実施する中でどのような得意・不得意があるかを把握しています。

また、体調管理に必要な情報提供(調子を崩すきっかけ、サイン、対処法など)を受けることができます。

採用後も会社の担当者をサポートしてくれるので、安心して労務管理に取り組むことができるでしょう。

③ 仕事内容がイメージしやすくなるように、任せる仕事を切り出しておく。

漠然とした内容だと障害特性を有する方は「難しい仕事で自分にはできないのでは...」と不安が一層増してしまいます。

会社側としても就労していない以上、どんな仕事をしてもらうかのイメージはつきにくいものです。

そのようなことから少なくとも「データ入力」「資料の整理・ファイリング」「決まった時間の清掃」など、ある程度イメージできるように示すことが重要です。

こうすることで、本人の能力、特性、配慮事項と、実際の業務内容・難易度が合っているかをすり合わせていくことができます。

④ 体験実習などを実施する。

③でイメージしている仕事を採用前に体験してもらうことも効果的です。

週1回・1時間程度の内容を複数回実施するだけでも、仕事へのイメージができ、通勤時の負荷などを把握してもらうことができます。

支援機関を通じて体験実習に至った場合、障害者の方は体験実習の後に支援機関の担当者に内容を報告することが一般的です。

その内容を共有してもらうことで、本人がどのように感じているかを把握することができ、採用の可否の参考にも活用できます。

採用後

労務管理担当者としては、採用後に日々どのように接していくかを考えなければなりません。

次のことを念頭において日々対応していくことが重要です。

① 即戦力としてこだわらない。

障害特性上、人によっては仕事に慣れるまでの時間が健常者と比べて大きく異なります。

採用直後は労務管理担当者もその点を意識できていますが、時間が経つにつれてその意識が希薄化してしまうこともあります。

広い心で長期的な視点を持って育成していくことが重要です。

② 仕事は段階的に任せていく。

健常者には容易な仕事であっても、障害特性に応じて人によって難易度が異なります。

これを画一的に進めていくには、会社が基本的な手順書を用意し、本人が必要と感じたことを手順書に加えさせることがお勧めです。

そしてその手順書を作らせる時間も十分に与えましょう。急がせたり、途中で止めさせるようなことは避けてください。

万が一、本人が退職したとしても、その手順書は次の方へのマニュアルとして引き継がれるため、無駄になることはありません。

③ 配慮はするが甘やかさない。

障害特性があるので、仕事や健康などに配慮することは必要です。

しかし、その配慮が甘やかしに繋がらないよう内容に応じてきちんと指導・注意することも大切です。

会社である以上、その場は職業訓練ではなく、仕事を通じて貢献してもらわなければなりません。

私は面接のときからこの話をするようにしていました。

④ 言葉で詰めない。

与えた仕事が独力でできるようになるまで時間は必要で、ときにはミスをしてしまうこともあります。

そのようなときに「なぜ」「どうして」と詰めても、その多くは本人の改善につながりません。

なぜなら「なぜ」「どうして」という原因そのものを理解できていないこともあるからです。

このような場合には「次はこうしよう」と対策を提示したうえで、本人に手順書を修正させていきます。

⑤ 面談やコミュニケーションを適宜行う。

面談や日々のコミュニケーションを通じて、不安に思っていることはないかを把握していきましょう。

これを続けることで安心感を与えることができ、体調管理や仕事への集中も徐々に良くなっていきます。

そして体調・業務の状況・不安などを把握することで、早期の対応も可能となります。

必要以上に特別視せず、自然に接することは甘やかしではなく、適切な配慮といえます。

終わりに

上記の内容は、精神障害を有する方の労務管理上の基本的な考え方となります。

障害特性によって細かい部分の対応が異なることはありますが、基本的な部分をおさえておくことは重要です。

労務管理担当者の方々に直接障害者雇用のノウハウをお伝えすることも当事務所の業務の一環として行っています。

障害者雇用に関するご相談は、理論と実務経験が豊富な当事務所にお問い合わせください。