始業前の着替えが労働時間にあたるのか?
はじめに
始業時刻前の着替え時間が労働時間にあたるのか否かということが報道などで目にすることがあります。
最近では、埼玉県草加市のごみ回収業務に従事する職員の制服への着替え時間が労働時間とされて割増賃金を支払ったという事例もあります。
今回は、着替えの労働時間性について検証してみたいと思います。
判断の要素
まず、始業時刻前の行為(今回であれば着替え)が労働時間か否かを判断するための要素は次のとおりです。
① その行為(着替え)が義務付けられていたか否か。もしくは余儀なくされていた状況にあったか否か。
② その行為(着替え)に場所的な拘束があったか否か。
このような要素を総合的に考慮して労働時間か否かを判断します。
少なくともこの時点で、「着替え」=「労働時間」という単純な構図ではないことが明らかです。
①について
①の「義務付け」または「余儀なくされていた状況」を具体的に掘り下げてみましょう。
まず「義務付け」については、着替えを所定の更衣所で行う旨の規定や指示命令があれば、義務付けありとされる可能性が強まります。
そして「余儀なくされていた状況」は、上記のような義務付けまではないにしても、所定の更衣所で着替えをしなければ懲戒処分(不利益取扱)の対象になるような場合であれば、「余儀なくされていた状況」ありとされる可能性が高まります。
②について
次は②の「場所的な拘束」です。
上述のように所定の更衣所などは場所的拘束があると明確ですが、自宅で着替えて出勤するかが自由に選択できるのであれば場所的拘束は弱まります。
しかし、指定している制服が汚れの目立つようなものであって、公共交通機関などの乗車にはそぐわないようなものであれば、会社での着替えを「余儀なくされていた状況」と解される可能性もあります。
つまり、着替える場所を自由にしただけでは不十分で、どのような制服であるかもまた重要なポイントになるということです。
おわりに
このように「どのような制服なのか」「どのような指示命令をしているのか」「就業規則にどのような規定がなされているのか」という点が重要であることがわかったと思います。
単純に着替えという行為だけで労働時間にあたるということではなく、このような事実の差異が労働時間にあたるか否かを分けるということです。
残念ながら報道やネット上では「着替え」という行為のみに着目し、「着替え」=「労働時間」というイメージが先行している感が否めません。
しかし、このような情報の拡散は無視できるものではなく、現状で問題になっていなくても将来問題になる可能性もあります。
不安や懸念があればお早めにご対応されることをお勧めします。もちろん、弊所でのご相談も承ります。

