日本版DBSと労務管理

日本版DBSとは

日本版DBSとは、子どもに関わる仕事に就く人の性犯罪歴の有無を雇用主が確認することを義務付ける制度です。

性犯罪歴のある人物が学校・保育所・認定された学習塾などの職場における子どもに対する性被害を根絶することを目的とする仕組みです。

2024年6月に「こども性暴力防止法」として法律は成立しましたが、施行には至っていません。同法は、2026年12月26日までに施行となる予定です。

コラム掲載時点では、施行準備検討会がガイドラインの策定に向けて各種取りまとめを行っています。

2025年9月29日の中間取りまとめでは労務管理に関する記述がありましたので、今回はこれを簡単にまとめたいと思います。

運営者が講じる措置

それではまず重要な法律条文を確認してみましょう。

(犯罪事実確認の結果等を踏まえて講ずべき措置)
第六条 学校設置者等は、第四条の規定による犯罪事実確認に係る者について、その犯罪事実確認の結果、前条第一項の措置により把握した状況、同条第二項の児童等からの相談の内容その他の事情を踏まえ、その者による児童対象性暴力等が行われるおそれがあると認めるときは、その者を教員等としてその本来の業務に従事させないことその他の児童対象性暴力等を防止するために必要な措置を講じなければならない。

運営者としては、「おそれ」「防止するために必要な措置」とはどのような内容なのかといった点が気になるのではないでしょうか。

「おそれ」と「防止するために必要な措置」

中間取りまとめでは、次の①から④を「おそれ」として挙げ、これに対応する防止措置を想定しています。
なお、「おそれ」の判断プロセスも示されていますが、今回は割愛します。

「おそれ」「防止するために必要な措置」

犯罪事実確認の結果、特定性犯罪事実該当者だった場合
対象業務に従事させない。
 ・新規採用の場合は内定取消し等
 ・現職者の場合は対象業務以外への配置転換等

在籍する児童等又はその保護者から、特定の対象業務従事者による児童対象性暴力等の被害の申出があった場合
被害が疑われる児童等との接触の回避を行う。
 ・一時的に対象業務から外し、自宅待機や別業務に従事させる等

調査等の結果、児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合
対象業務に従事させない。
 ・懲戒事由に該当する場合には、懲戒処分の実施。
 ・雇用の係属となる場合には、対象業務以外への配置転換等

調査等の結果、児童対象性暴力等には該当しないが不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合
重大な不適切行為である場合
 ➡ ③に準じた対応を行う。
初回かつ比較的軽微なものであるような場合
 ➡ 再発防止のため、指導・研修受講命令・経過観察などを実施する。
指導したにも関わらず、同様の行為を繰り返した場合
 ➡ ③に準じてより厳格な対応を行う。

①の場合で現職者に犯罪歴が認められたときには、採用過程で犯罪歴の有無を確認しているなどの事情がない限り、一般的にただちに解雇することは難しいとしています。

ただし、配転を検討したが配転先がなく、解雇以外の選択肢がないという場合には、解雇有効性の判断に影響を与え得るとしていることから解雇権濫用法理との兼ね合いになります。

④においては、個人間の連絡のやり取りなどが不適切行為として例示され、指導と経過観察が望ましいとしています。

運営者の労務管理上の検討事項

法律の施行日までにはガイドラインが公表されると思いますので、現時点では次の項目を検討しておくことが望ましいと考えます。

・募集要項の採用条件に犯罪歴がないことを明示する。
・採用手続の内規やマニュアルがあれば、犯罪歴の確認を加筆する。

 (履歴書、採用面接、内定時誓約書等を通して書面等で明示的に確認する。)
・内定通知書や就業規則に、内定取消事由や試用期間の解約事由として「重要な経歴詐称」が定めてあるかの確認。

特に注意しておきたいことは、就業規則(懲戒)の制定や改定を要する場合です。

懲戒権を行使するにあたっては「罪刑法定主義」「不遡及の原則」という制約が課されます。
「罪刑法定主義」・・・懲戒処分をするには、その理由となる事由とこれに対応する懲戒の種類が就業規則上明記されていなければならない。
「不遡及の原則」・・・懲戒処分の根拠となる規定は、その規定が設けられる前の事案に対しては適用することができない。

つまり、就業規則(懲戒)の制定や改定を要する場合には、法の施行日までには手続を終えておくことが望ましいです。

子どもの人権という極めて重要な部分になりますので、ガイドラインが策定され次第、専門家と協力しながら日本版DBSに対応していくことが運営者として求められていると思います。